モコの弁護士ウォッチング

自白したけど

「モコ、今日は日曜日だけど、事務所に行く?」
「クゥーン。クウーン」
大変、大変。急いで玄関に行かなければ。
僕が一番に出たいよ。

僕の名前はモコといい、五才になるコーギー犬です。大河内家の一員で、僕は人が好きで、家族が一番大好きです。

日曜日のシルクセンターは休みの事務所が多く、とても静かです。でも、ご主人様の事務所の横浜シルク法律事務所は、人の声がしてにぎやかです。僕は、うれしくなりましたが、何故なのか不思議に思いました。
十人以上の人が自白の信用性についてとか、無罪推定の原則とか、話しています。僕には何のことかさっぱり分かりません。みんなの話の邪魔をしないように、静かにしているうちに眠くなり、ウトウトしてしまいました。

ガタガタ ガタガタ
と、椅子を運ぶ音、
ざわざわ ざわざわ
と話す声
僕は、目をさましました。

「今日の午前中に放映した、10チャンネルのサンデイプロジェクトで取り上げてくれたT事件は、とてもわかりやすかったですね。」
「100点満点ですね。」
「大河内先生も、そのままという感じで、撮れており、よかったですね。」
「Tさんの奥さんも、よかったですね。」
「四回くらい、取材に来られたかな」
「Tさんご夫婦の若い頃の写真が写っていましたが、お二人とも、美男美女ですね」

と、いろいろな話し声が 急にしだしました。どうも、T事件についての取材があり、テレビで放映され、そのビデオを見るようです。

「あっ、あれは、ご主人様だ」
「テレビに ご主人様が大きく、写ってる」
「なんだ。なんだ。」

サンディプロジェクトで取り上げたT事件とは、18年前に起きた事件です。二人の人を殺害し、現金を取ったということで、起訴されました。

Tさんは、「行ったときには、二人は死んでおり、現金だけを取った」ということです。でも、取り調べの最初の段階で、自白したことになっています。というのも、取り調べが厳しく、殺していないけれど、認めてしまえば、楽になると思って、自白してしまったということです。それに、裁判で、「本当は、していないと言えば大丈夫だろう」と思ったということです。
でも、自白の言葉は重く、「実は殺してはいない」と、否定したのですが、取り調べはどんどん進み、起訴されてしまいました。

ご主人様が、Tさんの弁護人になりました。否認事件ということで、ご主人様が主任弁護人で、他に四人の弁護士が加わりました。

事件現場に、何回も行ったり、Tさんの足取りを、車で実際に動いたり、事件現場の部屋の模型を作ったり、近所の人に聞き込みに行ったり、被害者の足取りを自転車で動いたりしました。

さらに、書類を持ち、考えるために山小屋に立てこもったりと、事件解明のために、費やした時間は計り知れません。

そのうえ、市民の皆さんに分かってもらうために、本も執筆しました。本の題名は、「無実でも死刑、真犯人はどこに」です。今回のテレビ取材のきっかけとなったのも、この本を読み、無罪を信じてくれたようです。

この他にも、弁護団会議や合宿と、細かいところまで検討し、裁判で主張してきました。そんな弁護士の姿勢に賛同し、支援の会が作られたことは、心強いことでした。

事実と照らし合わせると、殺害順序も、凶器も、合っていません。狭い部屋で殺されていたのに、ちゃぶ台の茶碗や、家具など何も倒れたり、壊れたりしていません。
さらに、殺害されたという時間帯は、十五分ほどですが、不動産業のために、外からはガラス戸越しに中が見えるし、誰が訪ねてくるかも分かりませんし、出入り口も、一箇所しかありません。

ここも事実と違っておかしい、あそこもおかしい、違っていると主張したけれど……。
ご主人様たちは、無罪が言い渡されると、信じ、期待したけれど……。
一審の壁は厚く、有罪判決の「死刑」となりました。

これ以上、「何をしたら、」と、落ち込みながらも、ご主人様はじめ、弁護士の人たちは、高等裁判所の裁判に向け、また、動き出しました。

でも、高等裁判所の判決では、事実と合わないが、それは、虚偽の自白をしたので、Tさん以外に犯人は考えられないということで、同じく死刑が言い渡されました。

最高裁判所では、裁判の過程を聞いていた支援の人たちが、「Tさんが犯人だとは思えないから、無罪が言い渡されるね」と、言っていました。でも、でも、「死刑」ということで、確定してしまいました。

今は、再審請求をしています。

「クウーン、クウーン」
餌が そこにあるよ
「おなかがすいて、欲しいよ」
「欲しいよ」

「ウーン、ウーン」
僕のボールが隅に入ったよ
「僕に取れないよ。取ってよ。」
「取ってよ」

「ワン、ワン、ワン」
変な音がするよ
「怪しいよ 気をつけよう」
「気をつけよう」

「クウイーン」
ボールで 遊びたいのに
「遊んでよ つまらないなあ」
「つまらないなあ」

僕の犬語は、お母さんが一番理解してくれるけれど、他の家族の人は、時々、分からないらしく、相手にしてくれません。

人間って いいなあ
言葉を お互いに理解していて
人間っていいなあ

僕たち 犬も 言葉で 話し、裁判もしたいなあ
ワンワンだけでなく 言葉で 理解し 真実を突き止めたいなあ

裁判って 言葉で 真実を突き止めるんでしょ
検察官が話し
弁護士が話し
裁判官が聞き
お互いに 理解していって

最後は 裁判官が 検察官と 弁護士の話を よく聞いて
裁判官が 判決を下す

人間って すごいね
言葉で お互いに理解しあって
人間って すごいね

でも
言葉で 理解できなかったら
次は どうするの
何があるの

(横浜シルク法律事務所 高橋事務員記)

弁護士ウォッチングが本になりました!