モコの弁護士ウォッチング

当番弁護士

目を覚ますと お日様が障子ごしに 暖かそうに輝いています。二月下旬だというのに、ウキウキするような 春の日差しのように感じます。
「気持ちよさそうだなあ。散歩に行きたいなあ」
「早く 連れて行ってくれないかなあ」

僕の名前は モコです。大河内家の犬で、僕のお母さんは 弁護士の奥さんです。僕は犬なので、「お母さん」と呼んでいるのは、本当の僕のお母さんではありません。でも、僕はそう思っています。僕の気持ちを一番よく分かってくれるし、やさしくしてくれるからです。でも、内緒だけど怒ると怖いです。

僕のご主人様も 目を覚ましました。
「今日は 午後から、当番弁護士の日だ。」
と 話していました。

僕は 当番弁護士という言葉で、思い出しました。
その日は、今日と違って どんよりと曇っており、動きたくないような日でした。ウトウトとしていると、突然ご主人様から電話があり
「当番弁護士で 藤沢の警察と、瀬谷の警察に行かなければならないから、一緒に行ってくれ」
「何時ごろ」
「六時ごろ駅に着くようにするから」
と、話していました。電話を切った後、お母さんが
「モコも一緒に行く?」
と聞いたので、クウーンクウーンと オッケーの返事をしました。みんなで一緒に 車で出かけるのは 僕は大好きです。

お母さんが運転して、最初に藤沢の警察署に着きました。ご主人様は、運転しないので、車のときは、お母さんがいつも運転手です。ご主人様が警察の中に入ったので、僕たちは、駐車場に止めた車の中で、待ちました。外は暗いのですが、僕の目は ちょっとでも動く気配があれば 直ぐ分かります。安全かどうか確認するのが、僕の仕事です。でも、動く気配は、僕の好きな人間ばかりで、警戒しなければいけない猫や犬はいません。ちょっと降りて、挨拶したいけれど、お母さんは、降りる気配はありません。僕を「いい子いい子」してくれたり、音楽を聴いたり、本を読んだりしています。本は、車の電気をつけて読んでいますが、目が疲れるのか、すぐ止めてしまいます。僕はご主人様が入ったドアを見ていますが、なかなか出てきません。

やっと ご主人様が出てきて、僕の頭をなでてくれました。これで安心と、座席で、丸くなりウトウトしていると、二人の話し声が 聞こえてきました。
「何の容疑なの」
「酔って、強盗傷害事件を起こしたけど、本人は よく覚えていないようだ」
「タクシーを降りるとき、酔っているために、一万円を払わないで降りようとしたらしい。」
ご主人様は、時々メモをしながら、何か考えています。

この事件は、「強盗傷害事件」として 警察は起訴しようとして、取調べをしていました。本人は、酔っているためにはっきり覚えておらず、一万円を踏み倒す結果になったようです。お金を払うときになり、「お客さん」と声かけられたのに、力で振り払ってしまったとのことです。そのまま警察に連れて行かれ、泊まることになりました。「強盗傷害事件」だと、最低7年は、刑務所に行かなければなりません。ご主人様が駆けつけ、
「逃げるつもりは無いということだけは、警察にきちんと伝えなさい。」
と、話をしました。これは、「強盗傷害事件」ではなく、「傷害事件」になると判断し、
「逃げるつもりは無い」
という事実の言葉を伝えるようにしました。何が起こったかも良くわからず、奥さんも面会できないときに、本当のことを伝えることができるのは、弁護士のみです。結局、20日間近く警察に泊まることになりましたが、起訴されないで、会社も辞めないですみました。本人も お酒の怖さがわかったことと思います。

当番弁護士とは、刑事事件で警察に捕まったときに、頼むと来てくれる弁護士です。警察に捕まり、取調べを受ける段階で、外の世界とは遮断されてしまいます。弁護士だけが面会できるので、知っている弁護士がいれば、警察にお願いして呼んでもらうことになります。そうでないときには、「当番弁護士を呼んで欲しい」と、警察にお願いすると、弁護士会に連絡がいき、当番にあたっている弁護士が、駆けつけることになります。でも、弁護士みんなが、当番弁護士を引き受けているわけではないようです。当番だから、みんなが順番にするのが当たり前ではないのかなあと、僕は思いましたが、なぜだかは 僕には、分かりません。

夜も遅くなり、瀬谷の警察署に着きました。またまた 僕とお母さんとは、待たされました。もう、夜の9時過ぎになっており、僕は 疲れました。
「ああ、疲れたなあ。早く家に帰りたいなあ。」
でも、
「お母さんは 僕よりもつかれているかな。」
「ご主人様のほうが きっと もっと疲れているかな」
と、考えていました。僕は、当番とは大変だということが、当番弁護士とは、大変だということが分かりました。そのうえ、法律扶助をうけるケースが多く、弁護士にとっては、お金にはならないようです。当番には、ならないほうがいいようです。でも、僕たち犬だって、困ったときに 助けてくれる人がいたら、とても助かります。

クウーンクウーン
あ 困っているぞ
クウーンクウーン
何か いやなことが あったのかな
クウーンクウーン
吠える元気もないぞ
誰か 誰か
行ってあげて
誰か 誰か
助けてあげて

そうだ。こういうときに、当番弁護犬がいたら、すぐに駆けつけてくれるぞ。そうだ。当番弁護犬制度をつくればいいんだ。でも、誰が 引き受けてくれるかなあ。僕もできるかなあ。難しいかなあ。

「あ、ご主人様が出てきたぞ。」
疲れた顔をしているけれど、終わらせたという充実感もあるぞ。よかったねー。よかったねー。

(横浜シルク法律事務所 高橋事務員記)

弁護士ウォッチングが本になりました!